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No.003『chain』

…美由紀は遠く離れた恋人に会いに行く途中、事故で亡くなったのです。
しかし、事故のあった日の夜、彼の携帯電話に掛かってきた一本の電話は彼女の番号を画面に通知していました。
彼は気味悪がって電話に出ようとはしませんでしたが、次の日も、またその次の日も毎晩同じ番号からの電話が掛かってくるので、事故から7日目の夜についには電話に出てしまいました。
そして翌朝、彼は自室で冷たくなっていたそうです。手には携帯を持ったまま。

このメールが届いたら、7日以内に3人以上の人に同じメールを出して下さい。
さもないと7日後の夜、美由紀からの電話が掛かってきますよ。


「…なんだこりゃ、まだこんなのやってるヤツがいたのかよ。」
久しぶりにメールが届いたのかと思えば、それは懐かしさすら漂う感のある時代錯誤のチェーンメールだった。
話のネタとして面白いというほどの内容でもなかったので、隆志は即座にそれを消去し、翌日には忘れていた。

しかし、ある晩、電話が鳴った。

画面には『美由紀』と出ていた。
例のメールが届いた日から数えてちょうど7日目の夜のことだ。
「・・・手の込んだイタズラだぜ。」
隆志はそう言って電話に出ようとしたが、ふと気付けば聞き慣れない着信音である。
自分の携帯にこの音は入ってなかった筈だ…。
次第に只ならぬ異様さを肌で感じ始めた隆志は電話に出るのを躊躇った。
『美由紀』の恋人は電話に出たために死んだのだ。
…いや、しかしそんな馬鹿な話がある訳が無い。
きっと何処かの閑人の仕業に違いあるまい。
このまま出なければ向こうも折れるさ…。

だがいくら待っても電話は鳴り続けた。

「…なかなかしぶとい奴だな。ふん、いいだろう、根競べといこうじゃあないか。」
隆志は鳴り止まない電話をテーブルの上に置き、ベッドに腰掛け、しばらく電話と睨み合っていた。

翌朝、隆志は電話の音で目を覚ました。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい…。
電話はまだ鳴っていた。

いったいいつまで鳴り続けるのだろう…?

電源を切ってみようかとも考えたが、一晩鳴り続け、なおも止む気配のない電話を今ここで切ってしまうのはどうにも惜しい気がした。
「…よし、どこまで鳴り続けるか試してみよう。」

それから隆志は電話を見守り続けた。
常に満充電を心掛け、近所迷惑にならぬよう、自室に防音設備を施した。
友人などが訪ねてきた際には何故電話に出ないのかと問われ最初は返答に困ることもあった。
ある時見かねた一人の友人が電話に出ようとすると、隆志は必死にそれを阻止した。
まるで大事に育てた花が摘まれようとするのを庇うかのように。
そんなこともあって、周囲の人間は隆志から少し距離を置くようになった。
それでも隆志は今は電話が大事とばかりに周囲のことなど気にもしなかった。

時々、隆志は美由紀のことを考えるようになった。

美由紀はいったいどんな子だったのだろう。
この電話に出れば美由紀の声が聴けるのだろうか…。

何度も電話に出ようとしたが、既に生活の一部となったその着信音を、もはや手放すことも儘ならない。

だが、ある日、外から帰ってくると電話の音が聴こえないのに気が付いた。

慌てて隆志は電話を確認した。
画面には『着信あり 1件』と出ていた。

「……美由紀…。」

隆志は泣いた。
知らずの内に涙が溢れていた。

いつのまにか隆志の生活は電話を中心に回っていた。
いつも美由紀のことを想うようになっていた。
いつでも電話に出られると思っていた自分が甘かった。

こんなことなら電話に出ていれば…美由紀に会えたかもしれないのに…。

後悔の涙に暮れながら、隆志は『着信あり』の文字だけが浮かぶ液晶画面を見つめていた。

『着信あり 1件』

「着信……、はっ!もしや…!!」
咄嗟に隆志は着信履歴を調べた。
するとそこには美由紀の番号が…!

「これに掛ければ美由紀につながる筈だ…!!」
すぐさま通話ボタンを押し、電話を耳元に構えた。
呼び出し音が聴こえる。ちゃんと何処かには繋がっているみたいだ。
高鳴る鼓動を抑えながら隆志は呼び出し音を聴き続けた。
「…いや、きっと出てくれる筈だ…。」

隆志は呼び出し音を聴き続けた。


「…ねえ、マリ。さっきから携帯鳴りっぱだよ?出ないの?」
「あー、いいのいいの。出ないって決めたから。」
「誰から…?『隆志』…って、カレシじゃないよね…?」
「その電話、もう3日も鳴り続いてんだよ?スゲくない?」
「…もしかして前に言ってたメールのアレ?マジで信じてんの?ビビって出られないとか。」
「んなわけナイじゃん。でも、このまま放っとくのも面白いっしょ?」

「…。んじゃ、あたしが出たげる…」
「だっ、ダメぇ!!…、きっ、記録、更新中なんだから…っ!!」

慌てて真理は奈緒の手から携帯電話を取り上げると胸元に引き寄せ、両の手で優しく包み込んで隠してしまった。
まるで傷付いた小鳥を野良猫から守るかのように…。



『呪いのテレフォンコール』:yosssy(2003/04/10)
by YosssingLink | 2005-01-16 16:50 | ショートショート
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