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2005年 02月 03日 ( 2 )

No.007『REVERSE⇔REBIRTH』

…何だ、これは…?
一体、どうなってる…?!

人が、車が、街の通りを後ろ向きに過ぎてゆく…!?
それも一人や二人じゃない!
街を往来する全ての人や車が、後方を確認することもなく、「後退り」している…?


いや…、人や車だけではない…!?

空を飛ぶ鳥も…
噴水から流れ出る水も…
まるで逆回しで再生されたフィルムのように、本来在るべき方向とは逆の向きに流れていく…。
音も変だ。
周囲の音が全て逆回転のレコードのように聞こえる。
私は左腕の時計を見た。
秒針が左回りで正確なリズムを刻んでいる。
通常の1秒間隔…だが、『逆回り』だ…!

これは…時間が…、いや、この世界全てが、逆流しているのか…?

視線の向こうに見える、私が長年勤めている会社の社屋が徐々に遠ざかっていく…。
私も「逆流」しているのだ。
…ということは、これから向かう先は…、
いや、今は自宅から会社に出向いている最中で、
…つまり、自宅に戻っているということか…。

わけが分からないまま、私は自宅に辿り着いた。

程無くして息子の健一が帰ってきた。
…違う、帰ってきたのではなく、学校へ行く前の状態に戻ったのだ。
私が食卓に着くと、妻がテーブルに朝食を並べ…、いや、これは片付けてるところか…。

妻と息子と3人で朝食を囲む。
いつもと変わらない、朝の風景だ…逆回しだが…。
そして、いつも通り、一言の会話も無く、一瞬で朝の団欒が終了した。
妻は私に無愛想だし、息子は反抗期の真っ盛りだ…。
これもいつものことだ…。

食事が済むと、いや、食べる前に戻ったんだ…もうそんなことはいちいち気にしてられないな…。

私は寝間着に着替え、床に着き、手動で目覚しを鳴らし、鳴り終えたと同時に一瞬で眠りに入った。


前日の夜、まどろみながら、緩やかに「目覚め」ていき、「二日目」が「始」まった…。
やはり私は、自らが歩んできた人生を遡っている…。
その日も一日が逆向きに進行して…つまり、退行していったわけだ。
逆流だが、確かに身に覚えのある一日だった。
もっとも、私の人生なんて毎日が同じことの繰り返しで、特に事件でもない限り、一日一日を正確に覚えているわけではないのだが、どの瞬間を切り取っても、確かに私の人生の一部だという、既視感めいたものが常にあった。

これからずっと、私は…、私の人生は、逆流していくのか…?

今、私は五感を伴って、リアルタイムに人生を逆流している…。
意識も自我もあるのだが、行動は制御できない…。
今まで歩んできた通りに、同じ経路を正確に辿りながら戻っているのだ。
人と会話することがあっても、逆回しの音声では何を言ってるのか分からない…。
だが、かつて交わしたはずの会話だ…。
正確に思い出せなくても、前後の状況はその都度記憶が蘇ってくる。
行動は全て自動的なので、例えるなら「電車に揺られて流れる外の風景を眺めている」状況に似ていた。

月日を重ねていくにつれ、私はこの異常な状況に馴染んでいった。
最初は全く理解不能だった逆回しの音声も、違和感無く聴き取れるようになった。
毎日同じだと思っていたが、こうして違った形で追体験してみると、いろいろな発見があったりするものだ。
どうしても思い出せなかったことや、すっかり忘れてしまっていたことも、おかげで確認することが出来た。
代わりに二度と思い出したくなかったことをまた味わったりもするが、一度目ほどショックではなかった。

そのまま年月が過ぎて往き、私は今の状況に疑問を感じることもなくなっていった…。

時間が逆に流れているのだから当然と言えば当然だが、私は年月に比例して年若くなっていった。
無論、妻の早紀も、息子の健一も日ごとに若返っていく…。
特に健一の変化は顕著だった。
「育ち盛り」と言ったら語弊があるだろうか…?
身体的な変化もさることながら、あれほど反抗的だった息子が素直に話を聞くようになっていった。
健一が小学校低学年に戻る頃には私もかなり体が軽くなっており、二人でよくキャッチボールをした。
「逆流」でもキャッチボールは、そのまま、キャッチボールだった。

健一のボールをキャッチしながら私が言った。
「。…あなどぅゆしんねすぅゅかよるぷぁうぃあるぉょぃすっ」

フッ…ベタなことを言う…、私も親バカだな…。


健一の背丈はどんどん縮んでいき、そのうち言葉を忘れて、立って歩けなくなっていった。
あの生意気な健一がこんなに可愛く様変わりするなんて…、思いもしなかった…。
…おかしな感覚だが、そう表現するのが正しいように思う。
私は息子と過ごした大切な時間を忘れながら日々の生活を繰り返していたに違いない…。
今、ようやくそのことに気が付いたのだ…。

やがて健一は赤ん坊にまで後退し、まもなく出生の日を迎えようとしていた。

健一が生まれたその日、私と妻は産婦人科の病棟にいた。

寝台に横たわる妻は、生まれたばかりの健一を抱きかかえ、幸福に満ちた笑みを浮かべていた。
看護婦に連れ添われ、親子3人で長い廊下をゆっくり移動していく…

そうだ…健一…、もうすぐ「お別れ」なんだな…。
この廊下を渡り終えたらもう二度と会えない…。

やがて健一は妻と共に、分娩室へと消えていった。

さようなら…、ありがとう…、健一…。
お前は私の自慢の息子だったよ…。


息子が居なくなり、私の逆流人生は、妻・早紀との生活が中心となった。
私も随分と若返ったが、早紀もまた、若く、美しくなっていった。
結婚して十数年後には愛想笑いもしなくなるのだが、この頃の早紀は笑顔を絶やさなかった。
私も早紀の笑顔を見ていたくて、彼女を笑わせることに夢中になっていた。

やがて時は結婚前にまで遡り、俺達は毎日のように、いろんな所でデートをした。
早紀は子供のようにはしゃいだり、映画を観て涙を流したり、時には声を荒げて怒ったりもした。

早紀…、君がこんなに魅力的だったなんて…。
彼女は会うたびに初々しくなって、俺は益々、早紀に惹かれていった。

そして…もうすぐ、早紀と初めて逢った日…、
また「別れ」が近づいてきているのか…。

その日、終電間際の駅のホームで、俺は早紀と二人きりになる。
各駅停車でしか乗り降り出来ないその駅で、俺はたった一人で乗換待ちをしていた。
ホームに入ってくる電車の手前から3両目、その車両がちょうど俺の目の前で停車するまで、ずっと見ていた。
目の前の扉が開き、早紀が笑顔で小さく手を振りながら降りてきた。
彼女はそのまま俺の横に座り、お互いが手にしていた本の話題で盛り上がった。
そのとき、俺が時間潰しに読んでいた当時のベストセラー小説を、彼女もこの駅の乗換待ちで読むために持ち歩いていたんだ。
長いようで短いひとときが過ぎ、やがて電車がやってきて、早紀を吸い込んで消えていった。

これでもう、早紀に逢う事は無い…。
泣きたいくらいに切なかったが、涙は出ない…。

俺は何事も無かったかのように、小説のページを冒頭に向かって捲っていった。


早紀とも別れ、オレは学生に戻った。
学生のオレは、バンド活動に明け暮れていた。
ステージで…、ライブハウスで…、スタジオで…、仲間と音を共有し、興奮と熱狂を味わう。
オレは自分で作った曲を全身で聴いていた。
勿論、逆再生だが、今のオレにはあの頃(つまり、今)聴いたときと何も変わらない。
純粋に音楽を愛するオレがそこにいた。

家に帰れば、親父とお袋がいる。
二人ともまだ元気で、この頃のオレは親父と毎日ケンカしていた。
ちょうどオレもそんな時期で、そう、オレとオレの息子、…えーと、ケンイチ?…がそうだったように、素直になれずにギクシャクしていた。
改めて考えると、オレってかなりワガママだったよなぁ…。
親父やお袋の言ってること、間違ってないよ…。
オレのこと、真剣に考えてくれてるんだって、今なら分かるんだ…。
ゴメンな…、世話ばっかり掛けちまって…。


…最近、目線が、目に見えて低くなっていく…。
僕も、もう小学生になった…。
そして、それももうすぐ終わろうとしている…。

お父さんとお母さんは、どんどん若くなっていった。
いつも僕を見てくれていて、微笑みかけてくれる…。
やさしく話しかけてくれる…。

おとうさん、おかあさん、いつもありがとう…。


ぼくはもう…あるけない…、ことばをしゃべれない…。

ママがぼくをみて、わらっている…。
とてもうれしそうに、わらっている…。
こんなにうれしそうなママをはじめて、みた…。



…そうか、もうすぐ私の人生が、終わろうとしている…。
母が私の誕生を喜んでいる…、父も泣いていた…。

決して見ることの出来ない光景だと思っていたこの瞬間を、確かに私は記憶していた…!
父と母が愛し合い、私は望まれてこの世に生を受けた…。
父さん…、母さん…、ありがとう…。
私は二人の子に生まれて幸せでした…。
今、その幸福を噛み締めています…。
もう間もなく、この授かった命が、終焉を…いや…、始まりを迎えようとしています…。

私の産声が、宙を舞い、そして、私の小さな喉の奥へと吸い込まれて消えてゆく…。
両の瞼がゆっくりと閉じながら、私の逆流人生の幕引きを告げた…。


さようなら…素晴らしき人生…。




再び目を開くと、すぐそこまで灰色の地面が迫って来ていた。


…飛び降りた理由?

…。
駄目だ、思い出せない…。

無理も無い…、もう40年以上も前の話だ…。




『REVERSE⇔REBIRTH』:yosssy(2005/01/28)
by YosssingLink | 2005-02-03 02:47 | ショートショート | Trackback | Comments(13)

マイブ~ムかよっ?!

最近、ショートショ~トを読んだり書いたり妄想したりすんのが流行りですか私の(自問自答)。
いや、妄想はずっと前からやってて(ってオイコラ)、ソレを一話完結にして文章にしたって感じでやってマス。
妄想大好き人間だったんですねっ!(危)。
こーゆーコトはやり始めのうちは面白くてけっこうハマっちまうワタクシなんですね。
飽きるのも早いらしいですね。
ま、ネタが続く限りはどんどん書いていきたい所存ですわ。
ありがたひコトに、コメントを寄せてくださる方々のおかげでヤル気もグングン上昇中ですわ。
妄想爆発で仕事も手に着きませんわ(←死ね)。
なんつてね。ははは。

みなさん、ありがとーございます~。いやホンマに。
by YosssingLink | 2005-02-03 02:29 | 日記 | Trackback | Comments(0)