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2005年 02月 04日 ( 1 )

No.008『ノアの方舟』

気が付くと、私は暗闇の中、椅子に座らされていた…。

目が、開かない…。手が動かない…。
目隠しをされ、手錠を嵌められているのだ。

周りに人の気配がする…。

「…だ、誰、ですか…?」
恐る恐る言ってみた。

「ああ、すみません、もう目隠しを取って構いませんよ。」

若い男の人の穏やかな声が返って来た。
若いと言っても、多分、私の方が年下だけど…。

私は、手錠が掛かった両腕を顔の前に挙げてみせた。

「…あぁ、失礼…。津田君、取って差し上げなさい。」

いいんですか?いいんじゃない?

小声でそんなコトを言い合いながら、津田という人が目隠しと手錠を外してくれた。

うあっ、眩しいっ…。

私は真っ白い部屋の真ん中に置かれた机の前に座っていた。
机を挟んで向いにはメガネで白衣の男が座っていた。
その隣が、津田君か?
津田君はスーツ姿で、新入社員っぽい雰囲気だった。
二人の背後に、この部屋唯一の外界との連絡口と思われる、ドアがある。
白い直方体のこの部屋には他には何も無かった。

「ご気分はいかがですか?」

メガネが何の説明も無しに、いきなりそんなことを聞いてくるので腹が立った。
私は思わず立ち上がってちょっとキレ気味にこう言った。

「あなた、誰ですかっ!?
ここドコですか?!
なんで私、こんなトコに居るんですか!?」

「…はい、じゃあ、今から説明しますから、まぁ座ってください。
あと、幾つか簡単な質問をさせてもらいますので、分かる範囲でお答えください。」

って…こっちがこんなにエキサイトしてんのに…、
何?この温度差…。
私は拍子抜けして、ふて腐れながら崩れるようにして席に着いた。

「では、まず、あなたのお名前と年齢を言ってください。」

「…なんで?」

「名前と年を聞くだけですよ。他意はありません。
あー…では、質問を変えます。
あなたは君嶋 佳織さん16歳…で、間違いありませんか?」

「…知ってんじゃないスか。…てゆーか、あなた誰なんですか?!」

「私は三上といいます。こっちは津田です。」
「津田です。」

「あ、ども…。あ。で、ココは何ですか?」

「その説明の前に、こちらの写真をご覧ください。何が写ってますか?」

「…私の両親。」

「はい、ではコレは?」

「都知事。」

「コレは?」

「ウチの学校。」

「コレは?」

「ドラえもん。」

「では、最後に、今日は西暦何年何月何日ですか?」

「えーと、2005年の…1月、…え?私、ココに連れて来られて何日目?」

「…半日です。」

「…んじゃ、26か7かな?」

「はい、結構です。
それでは本題に移りますが…、
我々は、とある非政府組織の者でして、
今、進行中の大型プロジェクトにご協力頂ける優秀な人材を全世界で募っている最中なんですよ。」

「はい…?もしかして、新種の詐欺かなんか?
…つーか、私、拉致られてますよね?」

「まぁ、話を聞いてくださいよ。
TVや映画とかでよく見るでしょう?
環境破壊や天変地異で人類滅亡する話。」

「ええまぁ…。」

「環境汚染や電磁波、生活習慣、生活環境等の変化が人体に及ぼす悪影響…、ホルモンバランスの乱れとか、免疫力低下といった話は?」

「まぁ、聞いたコトは…。」

「実はこういった話は、SFなどではなく、現実問題としてかなり切迫した状況でしてね。
既に何世代か前から他人事ではなくなっているんですよ。」

「はぁ…。でも明日にでも地球が爆発するってワケじゃ無いんでしょ?」

「わかりませんよ?この星が抱えてる爆弾は核や地雷ばかりじゃないんですよ。
それに何か起こってからじゃ、どんな対策であれ遅過ぎるでしょう?」

「まぁ、そうですが…。」

「そこで我々は来るべき人類滅亡のシナリオを回避すべく、今、最も優良な遺伝情報のサンプルを後世に残していく計画を進めているのです。
そして検査の結果、君嶋佳織さんのDNAは特に優良であることが判明致しまして、こうしてお越し願ったわけです。」

「ええっ?!そんなバカなッ?!
親も親戚も先祖もフツーのヒトばっかなのにー?!
私だって、フツーに学生なんだけど。
成績もちょいヤバめだし?」

「…それは単にあなたが自己鍛錬を怠っているからでしょう。
先天的なポテンシャルのみで言えば約30億の登録リストの中でも総合的に見て、トップレベルですね。
何かひとつの分野に秀でている、というのではなく、全体的にバランスが良く、生物、医学的に見て極めて理想に近い人体と言えます。」

「マジですかっ…。私って、実はスゴかったのね…。
あの…ところで、私、そんなモノに登録なんてした憶え無いんだけど…?」

「ええ、そうでしょうな。
ですが、過去に病院等で予防接種や採血をされた経験はお有りでしょう?」

「そん時にかッ?!…え?あれ?、ちょっと待ってよ。
既にDNA取得済みなら、今日私は何でさらわれたワケ?」

「まぁ、それこそが本題中の本題なのですが…、
ちなみに、あなたから得たDNAをどう活用するか、分かりますか?」

「さぁー。えーと、後々、クローンとか作るんじゃないの?ヒツジみたく…。」

「そうですね。まぁ、言ってしまえば、表立っては羊のクローニング成功ってところまでですが、裏では勿論、既に人間のクローンも作られています。」

「あー、やっぱりね。」

「理論上はオリジナルと何ら遜色の無い完全なコピーを作ることが可能なはず…ですが、
実際、現段階では未だ完全なクローニングの成功に至ってはいません。
何故だか分かりませんが、クローンは極端に寿命が短く、肉体も不安定なのです。」

「…へぇー。…?」

「今後、研究を続けていけば、いずれクリアになる問題かもしれませんが、しかし何の確証もありません。
当初はコピーのためのDNAサンプルのみを保存していれば問題無いかと考えていましたが、
完全なオリジナルの原版が必要なケースも出てくる可能性が無いとは言えないため、
万が一の保障としてDNA提供者であるあなた自身も貯蔵しておきたいんですよ。」


「ぇ……。…はぁっ?!!」


「地球規模の災害をも想定して、あなたがたをいつでも宇宙に射出できるよう、宇宙船の準備も既に完了しています。
我々はそれを『方舟』って呼んでるんですがね。はっはっは。
…えー、さて、どうですか君嶋さん?
この計画に賛同していただけますか?」

「あのっ…、ちょっと、フザけないで下さいって!賛同するワケないっしょー?!
地球が滅ぶったって、現実的に考えて、私がフツーに死んでから何百年も先の話でしょーがっ!
そんなの、ン百年後のヒトにやらせりゃいいじゃんか!」

「えー、さっきも言いましたが、人間の進化はもうピークを過ぎて行ってるんです。
あなたの世代でギリギリです。
加えてあなたがそれ以上年齢を重ねたら検体としての価値が下がります。
今しかないんです。」

「絶対イヤですって!
人類滅亡とか知ったこっちゃないっスよ!
私には私の生活やら将来設計やらあるんですから!」

「イヤですか。まぁ、あなたに選択権は無いんですけどねぇ。」

「!!…、…私をムリヤリ冷凍庫に閉じ込めようっての…?
だからこんな人攫いみたいなマネして…、
最初からそのつもりなら、こんな回りくどい尋問とか、やんなきゃいいじゃんかよ!?」

「ええ、まぁ…、確かにあなたの意見を聞く気は最初からありません…、
ですがこの審問は、これはこれで、ちょっと試験も兼ねてまして…、
そのついでに被験者の意識調査もさせていただいてるというワケですよ。」


「…何?どういう…意味…?あっ… ぅう…っ? …ぇ…???」


何…?
急に眩暈が…頭痛が、吐き気が……

体中が焼けるように熱い…?!


「おや?君嶋さん、どうされましたか?ご気分が優れないようですが…?」

…く、苦しい…、痛い…、

私の両手が…みるみるシワになって黒ずんでいく…。
た、助けて…。

「ご理解いただけましたか?
ご覧の通り、これが今の我々のクローン技術の限界なんですよ。
オリジナルの方は我々が責任を持って厳重に管理致しますから、どうかご安心ください。
必ず人類の未来に役立ててみせますよ。
後は我々に全てお任せください。
それでは君嶋佳織さん、お疲れ様でした。ご協力に感謝致します。」




『ノアの方舟』:yosssy(2005/01/29)
by YosssingLink | 2005-02-04 00:56 | ショートショート | Trackback(1) | Comments(6)